- B型肝炎給付金は母子感染でももらえるの?
- 母子感染ってどうやって証明するの?
- 母が他界していても母子感染だってことを証明できるの?
- 平成生まれでも給付金はもらえるの?
あなたもそういった疑問を持ったことがありませんか?
本記事では、母子感染者として和解するための方法について解説します。
目次
1 はじめに
B型肝炎給付金は、集団予防接種等*¹によってB型肝炎ウイルス(以下「HBV」といいます。)に持続感染*²した方やその相続人に対して支払われる給付金です。病態*³等に応じ、50万円〜3600万円の給付金が支払われます。
集団予防接種等によってHBVに感染した方には、一次感染者だけでなく、二次感染者と三次感染者も含まれます。集団予防接種等を直接の原因としてHBVに持続感染した方を一次感染者といいます。二次感染者は、一次感染者からの母子感染または父子感染によって持続感染した方です。三次感染者は、母子感染者からの母子感染または父子感染によって持続感染した方です。
B型肝炎給付金の請求は、社会保険診療報酬支払基金という民間法人に行います。請求する際には、国との和解調書が必要になります。そのため、請求の前提として、国との和解を求めて、裁判を起こします。この裁判をB型肝炎訴訟といいます*⁴。
*² 持続感染とは、6か月以上継続する感染のことです。6か月未満で治る一過性感染と区別されます。
*³ 病態には、無症候性持続感染者(慢性肝疾患を発症していない持続感染者)、慢性肝炎、肝硬変、肝がん、死亡があります。
*⁴ B型肝炎給付金には請求期限があります。2027年3月31日までに裁判を起こさなければなりません。
2 母子感染ってなに?
母子感染とは、母親の胎内又は産道で感染することです。垂直感染と呼ばれることもあります。ほとんどが産道感染であり、胎内感染は約3〜5%⁽¹⁾ です。
母子感染は、最も有力な持続感染の原因です。
母親が持続感染者というだけなら、母子感染の成立率は約25%にすぎません⁽²⁾。しかし、母親がHBe抗原陽性だと、何の措置も施さなければ、ほぼ100%母子感染が成立します⁽²⁾ ⁽³⁾。そして、母子感染が成立した場合には、子の80〜90%⁽²⁾ ⁽³⁾が持続感染者になります。
もっとも、昭和60年に母子感染防止事業が開始されたことにより、昭和61年以降、母子感染はほとんど発生しなくなりました。
母子感染防止事業は、母子感染によるHBV感染の拡大を防止するために昭和60年に開始された国家事業です。全ての妊婦に対しHBV検査を実施し、感染している場合には、生まれた子に対し母子感染防止措置を施します。
母子感染防止措置は、胎内感染の場合には効果がないのですが、正しく実施されれば、産道感染のほぼ全てを防止することができます。実際に、昭和61年以降、新たな母子感染者の発生は激減しました⁽⁴⁾。
なお、昭和61年生まれ以降の世代では、母子感染者だけでなく、新たな持続感染者もほとんど発生しなくなりました⁽⁵⁾ 。このことは、母子感染が主要な持続感染だったことを示しています。
3 母子感染者として和解するための要件
B型肝炎給付金の対象となる母子感染者は、一次感染者からの母子感染者(二次感染者)と母子感染者からの母子感染者(三次感染者)です。
一次感染者からの母子感染者が和解するための要件は、以下の3つです。
① | 母親が一次感染者の要件を満たすこと |
② | 本人が持続感染したこと |
③ | 本人の持続感染の原因が母子感染であること |
母子感染者からの母子感染者が和解するための要件は、以下の5つです。
① | 祖母が一次感染者の要件を満たすこと |
② | 母親が持続感染したこと |
③ | 母親の持続感染の原因が母子感染であること |
④ | 本人が持続感染したこと |
⑤ | 本人の持続感染の原因が母子感染であること |
4 母子感染を立証する方法
母子感染を立証する方法は、大きく分けて、以下の2つに分けられます。
ⅰ母子感染の可能性が高いことを証明する証拠を提出する方法
ⅱ母子感染以外の感染原因がないことを証明する証拠を提出する方法
ⅱ母子感染以外の感染原因がないことを証明する証拠は、以下の2つの場合で異なります。
(ⅰ)類型的に母子感染の成立可能性が高い場合
(ⅱ)類型的に母子感染の成立可能性が低い場合
ⅰとⅱの(ⅰ)による立証が原則的な方法です。ⅰとⅱの(ⅰ)の間には優先関係はありません。
ⅱの(ⅱ)による立証は原則的方法では母子感染を立証できない場合の方法です。
(1) ⅰ母子感染の可能性が高いことを証明する証拠を提出する方法
ⅰ母子感染の可能性が高いことを証明する証拠を提出する方法では、ⒶまたはⒷのいずれかを提出します。
Ⓐ | 出生直後の持続感染を確認できる証拠 |
Ⓑ | 「感染の因果関係あり」となっている母子間のHBV分子系統解析検査結果 |
ア Ⓐ出生直後の持続感染を確認できる証拠
周産期の感染原因は極めて限定的です。母子感染と生後すぐの輸血くらいですが、新生児に対する輸血が必要になる事態はかなり例外的です。そのため、出生直後に既に持続感染しているのであれば、母子感染の可能性が極めて高いといえます。
ただし、この証拠には2つの限定がかかります。
1つ目は、母子感染者が出生してから6か月以内に作成された資料でなければならないという限定です。それより後に作成された資料に「生まれてすぐにB型肝炎ウイルス感染を指摘された」というような記載があっても、Ⓐの資料にはなりません。
2つ目は、客観的資料でなければならないという限定です。客観的資料の例は、医療記録や母子手帳です。
イ Ⓑ「感染の因果関係あり」となっている母子間のHBV分子系統解析検査結果
HBV分子系統解析検査は、体内のHBV遺伝子の塩基配列を解読した上で、親子間の感染の因果関係を判定する検査です⁽⁶⁾ 。
持続感染は原則として幼少期感染に限定されるので、子から母に感染しても、母は原則として持続感染しません。そのため、「感染の因果関係あり」であれば、母子感染の可能性が極めて高いということになります。
なお、母子間のHBV分子系統解析検査の結果が「感染の因果関係なし」だと、母子感染でないことが確定します。判定不能の場合には、他の方法によることが必要になります。
(2) ⅱ母子感染以外の感染原因がないことを証明する証拠を提出する方法
ⅱ母子感染以外の感染原因がないことを証明する証拠は、類型的な母子感染の成立可能性の程度によって変わります。
類型的に母子感染の成立可能性が高い場合は、母子感染以外の原因による持続感染であることが確認されないことを証明する証拠を提出します。
類型的に母子感染の成立可能性が低い場合は、それに加えて、母子感染ではないと確認できないことを証明する証拠の提出も必要になります。
ア 類型的な母子感染の成立可能性の程度
類型的な母子感染の成立可能性の程度は、提出する全証拠から判断されます。
そして、以下のⒶとⒷのいずれも確認されない場合には、類型的に母子感染の成立可能性が高いとされます。
一方、ⒶまたはⒷのいずれかが確認される場合には、類型的に母子感染の成立可能性が低いとされます。
Ⓐ | 母子感染者の出生前に母親がHBe抗原陰性になっていたこと |
Ⓑ | 母子感染者が昭和61年以降に生まれたこと |
母親が持続感染者であっても、出産時にHBe抗原陰性になっていると、母子感染の成立率は6%⁽⁷⁾ 〜10%⁽³⁾しかありません。そのため、Ⓐが確認されると、類型的に母子感染の成立可能性が低いということになります。
母子感染防止事業の開始によって、昭和61年以降、新たな母子感染者は激減しました。そのため、Ⓑが確認されると、類型的に母子感染の成立可能性が低いということになります。
イ 母子感染以外の原因による持続感染であることが確認されないことを証明する証拠
母子感染以外の原因による持続感染であることが確認されないことを証明する証拠は、以下の(①)〜(③)です。
(①) | 母子感染以外の原因による持続感染かどうかを確認するための医療記録 |
(②) | 父子感染かどうかを確認する資料 |
(③) | ジェノタイプAe感染かどうかを確認する資料 |
ウ 母子感染でないと確認できないことを証明する証拠
母子感染ではないと確認できないことを証明する資料は、類型的に母子感染の成立可能性が低いとされた理由によって異なります。
(ア) 母子感染者の出生前に母親がHBe抗原陰性になっていたことが確認された場合
この場合は、以下の証拠を提出します。
出産時にHBe抗原陽性だったことを証する血液検査結果やカルテ |
出産時にHBe抗原陽性だと、以下のいずれかを意味することになります。
- HBeセロコンバージョン(HBeセロコン)*⁵を起こしかけたけど、結局起こさなかった
- HBe抗原陰性の検査が偽陰性*⁶だった
- HBe抗原陰性の記載が誤記だった
そして、これらであれば、母子感染の成立率は低下しません。
*⁶ 偽陰性とは、本当は陽性なのに陰性の結果が出てしまうことです。
(イ) 母子感染者が昭和61年以降に生まれたことが確認された場合
この場合、母子感染でないことを確認できないことを証する資料を提出します。
具体的な資料は、母子ともに健在なのか、母子の一方または双方が他界しているのかで異なります。
A 母子ともに健在の場合
母子ともに健在の場合は以下の(①)と(②)の両方の資料を提出します。
(①) | 判定不能のHBV分子系統解析検査結果 |
(②) | 母子のジェノタイプ検査結果(母子のジェノタイプが一致するか、母子の一方または双方が判定保留であることを要します。) |
B 母子の一方または双方が他界している場合
母子の一方または双方が他界している場合には、以下の資料を提出します。
母子の一方または双方が他界したことを証する戸籍 |
5 まとめ
本記事では、母子感染で和解する方法について解説しました。
母子感染は、母親の胎内又は産道で感染することです。昭和60年以前は、最も有力な持続感染の原因でした。
B型肝炎給付金の対象となる母子感染者には、二次感染者としての母子感染者と三次感染者としての母子感染者がいます。
母子感染を立証する方法は大きく分けて2つあります。1つ目は、母子感染の可能性が高いことを証明する証拠を提出する方法です。2つ目は、母子感染以外の感染原因がないことを証明する証拠を提出する方法です。
給付金を受け取るためには、様々な資料を集めて、自分が対象者であることを証明しなければなりません。その証明のためには、医学的・法律的な専門的知識が必要になりますし、医療記録の精査などのとても労力のかかる作業も必要になります。
もし、あなたやご家族様のHBV感染が集団予防接種等によるものかもしれないと思われるのであれば、お気軽に当事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が全力であなたをサポートします。
⁽²⁾ 白木和夫.B型肝炎ワクチンと母子感染防止.MODERN MEDIA.2004,50(12),p.279-285.https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM200412_01.pdf,(参照2024-01-23日)
⁽³⁾ 公益社団法人日本産婦人科医会母子保健部(2004).母子感染防止対策の手引.公益社団法人日本産婦人科医会. https://www.jaog.or.jp/sep2012/JAPANESE/jigyo/boshi/HBs/tebikiDr.pdf,(参照2024-01-23)
⁽⁴⁾ 集団予防接種等によるB型肝炎感染拡大の検討及び再発防止に関する検討会.集団予防接種等によるB型肝炎拡大の再発防止策について.厚生労働省ホームページ.2017.https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000034y5f-att/2r98520000034yd7_1.pdf,(参照2024-01-23)
⁽⁵⁾ 最判平18.6.16民集第60巻5号1997頁.https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/231/033231_hanrei.pdf,(参照2024-01-23)
⁽⁶⁾ 上田恵子.B型肝炎訴訟について.国立研究開発法人国立国際医療研究センター肝炎情報センター.https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/090/010/040/026/20150306_03.pdf,(参照2024-01-23)
⁽⁷⁾ 白木和夫.B型肝炎ワクチンと母子感染防止.モダンメディア.2004,50(12):279-285 ,p281.https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM200412_01.pdf,(参照2024−01−23)