- B型肝炎給付金を受け取るためには、B型肝炎ウイルス(以下「HBV」といいます。)に持続感染したことが必要って聞いたんだけど、持続感染ってなんだろう?
- 私もB型肝炎って言われたことがあるんだけど、持続感染なのかな?
- 亡くなった家族がB型肝炎って言われてたんだけど、B型肝炎給付金の対象になるのかな?
あなたもそういった疑問を持ったことがありませんか?
本記事では、持続感染の要件について、弁護士が解説します。
目次
1 はじめに
B型肝炎給付金は、集団予防接種等*¹によって*²HBVに持続感染した方やその相続人に対して支払われる給付金です。病態*³等に応じ、50万円〜3600万円の給付金が支払われます。
B型肝炎給付金の請求は、社会保険診療報酬支払基金という民間法人に行います。請求する際には、国との和解調書が必要になります。そのため、請求の前提として、国との和解を求めて、裁判を起こします。この裁判をB型肝炎訴訟といいます*⁴。
そして、国と和解するためには、持続感染を証明する必要があります。
*² 集団予防接種等によってHBVに感染した方には、一次感染者だけでなく、二次感染者と三次感染者も含まれます。集団予防接種等を直接の原因としてHBVに持続感染した方を一次感染者といいます。二次感染者は、一次感染者からの母子感染または父子感染によって持続感染した方です。三次感染者は、母子感染者からの母子感染または父子感染によって持続感染した方です。
*³ 病態には、無症候性持続感染者(慢性肝疾患を発症していない持続感染者)、慢性肝炎、肝硬変、肝がん、死亡があります。
*⁴ B型肝炎給付金には請求期限があります。2027年3月31日までに裁判を起こさなければなりません。
2 HBV感染
(1) HBV感染とは
HBV感染とは、HBVが肝臓に侵入して、肝臓内で増殖できる状態になることです。
HBV感染には、持続感染と一過性感染があります。
持続感染は、6か月以上継続する感染⁽¹⁾です。持続感染している人は、持続感染者やHBVキャリアと呼ばれます。
一過性感染は、6か月未満で治る感染です。一過性感染している人は、一過性感染者と呼ばれます。
6か月というのは、あくまで一過性感染と持続感染を区別するための期間です。そのため、6か月経てば持続感染が治るわけではありません。持続感染してしまうと、通常は数十年間感染したままになりますし、生涯感染したままの人も珍しくありません。
なお、HBVに感染したけど治った人のことを既往感染者といいます。
(2) 持続感染と一過性感染を決める要因
持続感染と一過性感染のどちらになるかは、主として免疫によって決まります。
そして、持続感染するのは、原則として、免疫機能*⁵が未熟な幼少期(7歳未満)に感染した場合に限られます⁽¹⁾⁽²⁾⁽³⁾ 。幼少期後に感染した場合は、免疫機能が十分に発達しているため、原則として一過性感染になります⁽³⁾ 。
(3) 幼少期後の感染でも例外的に持続感染してしまう場合
もっとも、例外的に幼少期後の感染でも持続感染する場合もあります。この例外は、以下の3つの場合です。
- ジェノタイプ*⁶Aeという種類のウイルスに感染した場合
- 免疫不全*⁷の状態で感染した場合
- 再活性化*⁸という現象を起こした場合
また、幼少期感染であれば、必ず持続感染になるわけでもありません。免疫能の発達の程度には個人差があるからです。そのため、一過性感染は、原則として感染年齢に限定がありません。
*⁷ 免疫不全は、免疫に不具合が起きて、からだの防御がうまく行われなくなった状態です。
*⁸ 再活性化は、HBVキャリアまたは既往感染者の体内のHBVが免疫抑制・化学療法などによって急増殖または再増殖する現象です。
3 B型肝炎給付金の対象になるのは持続感染
B型肝炎給付金を受給するための要件の1つとして、持続感染が要求されています。これは、持続感染であることで初めて集団予防接種等が感染原因であることの立証可能性が生まれるからです。
この立証可能性は、原則として幼少期感染に限定されるという持続感染の特徴から生まれます。この特徴から、持続感染したのであれば幼少期感染であろうとの推認が働きます。そして、幼少期は生活領域や行動様式が限定的であるため、感染原因も限定されます。考慮すべき感染原因が限定されることで、消去法によって集団予防接種等が感染原因であることを立証できるようになります⁽³⁾ 。
一方、一過性感染は、原則として感染年齢に限定がありません。そのため、あらゆる時期のあらゆる感染原因を考慮しなければなりません。そしてこれらを全て消去していくことは事実上不可能です。
このように、持続感染であれば、幼少期感染であるとの推認が働くことから、集団予防接種等が感染原因であることの立証可能性が生まれます。
4 持続感染を証明する方法
持続感染を証明する方法には、以下の2つがあります。
- 原則的方法
- 医学的知見を踏まえた個別判断による方法(以下「個別判断」といいます。)
なお、個別判断は、原則的方法で証明できない場合にだけ許される例外的な方法です。
(1) 原則的方法
原則的方法で提出する証拠は、以下のⒶまたはⒷの検査結果です。
Ⓐ | 6か月以上の間隔をおいた2時点における、HBs抗原、HBVDNAまたはHBe抗原の検査結果 |
Ⓑ | HBc抗体高力価陽性の検査結果 |
ア Ⓐの検査結果
Ⓐの検査項目は、陽性であれば感染中であることを意味する検査項目です。
持続感染は6か月以上継続する感染なので、6か月以上の間隔をおいた2時点で陽性になっていることが必要になります。1時点目と2時点目の検査項目は違ってもかまいません。
なお、HBs抗原陰性は、原則として感染中ではないことを意味します。しかし、HBVDNAとHBe抗原は、感染中に陰性になります。そのため、HBVDNAとHBe抗原の陰性は、感染中ではないことを意味しません。
イ Ⓑの検査結果
Ⓑの検査項目は、陽性であれば感染歴があることを意味する検査項目です。
そして、HBc抗体検査には、陽性か陰性かだけでなく、抗体の量から持続感染かどうかを判定できる検査方法があります。この判定を力価判定といいます。力価判定可能な検査では、6か月未満の感染ではここまで増えないだろうという量を基準にして、高力価(高抗体価)と低力価(低抗体価)に区分しています。そして、高力価(高抗体価)であれば、持続感染と判定します。
以下の表は、力価判定可能な検査方法の例と各検査方法の高力価の基準です。
検査方法 | 高力価の基準 |
---|---|
CLIA法 | 10以上⁽³⁾ |
RIA法200倍希釈 | 70%または90%以上⁽³⁾ ⁽⁴⁾ ⁽⁵⁾ ⁽⁶⁾ ⁽⁷⁾ |
EIA法200倍希釈 | 50%または70%以上⁽³⁾ ⁽⁴⁾ ⁽⁸⁾ ⁽⁹⁾ ⁽¹⁰⁾ ⁽¹¹⁾ ⁽¹²⁾ |
CLEIA法(ただし富士レビオのみ) | 100以上 ⁽¹³⁾ ⁽¹⁴⁾ |
PHA法 | 1024以上⁽¹⁵⁾ |
HI法 | 64以上⁽¹⁶⁾ |
なお、持続感染は長期間感染が継続すること、既往感染者に占める割合は一過性感染後の既往感染者の方が多いことから、HBs 抗原陰性かつ HBc 抗体低力価の場合には、原則として一過性感染後の既往感染者として扱われます。しかし、低力価(低抗体価)は、持続感染ではないまたは持続感染したことがないという意味ではありません。持続感染でも高力価にならないことはありますし、また、既往感染者になった後は HBc 抗体が減少していくからです。実際に HBc 抗体低力価であっても、HBs 抗原が 6 か月以上継続して陽性であるということは多くあります。また、現在は HBs 抗原陰性かつ HBc 抗体低力価であっても、過去の検査結果や個別判断によって持続感染を証明できることも珍しくありません。
(2) 個別判断
原則的方法では持続感染を証明できない場合も多くあります。たとえば、他界から長期間経過している場合や既往感染者になってから長期間経過している場合です。これらの場合には、検査結果が全くない、または、1時点における感染中を意味する検査結果しかないということがよくあります。
個別判断を求める際に提出する資料は、大きく分けて2つあります。1つ目は、原則的資料では証明できないことを証する資料です。2つ目は、持続感染を推認させる客観的資料です。
1つ目の資料が必要になるのは、原則的方法では証明できない場合にのみ許される例外的方法だからです。
2つ目の資料は、個別判断において持続感染を認定するための基礎になります。
B型肝炎ウイルスに感染していることやHBVに起因する慢性肝疾患を発症していたことが記載されている以下のⒶ〜Ⓕが持続感染を推認させる客観的資料の典型例です。
Ⓐ | カルテ |
Ⓑ | 死亡診断書 |
Ⓒ | 入院証明書 |
Ⓓ | 血液センターからの通知書面 |
Ⓔ | 母子手帳 |
Ⓕ | 1時点における感染中を意味する検査結果 |
なお、HBVに感染していることや感染していたことしか記載されていない場合は、それ単体では持続感染までは推認されません。他の資料と相まってはじめて持続感染を推認させることになります。
一方、HBVに起因する慢性肝疾患を発症していたことが記載されている場合には、単体で持続感染を推認させます。6か月未満で治る一過性感染では慢性肝疾患を発症しないからです。
5 まとめ
本記事では、持続感染について解説しました。
HBV感染には持続感染と一過性感染があります。
B型肝炎給付金制度の対象になるのは持続感染だけです。これは、持続感染でなければ集団予防接種等が感染原因であることを立証できないからです。
持続感染は、原則として血液検査結果で証明します。血液検査結果で証明できない場合であっても、個別判断によって証明できることがあります。
給付金を受け取るためには、様々な資料を集めて、自分が対象者であることを証明しなければなりません。その証明のためには、医学的・法律的な専門的知識が必要になりますし、医療記録の精査などのとても労力のかかる作業も必要になります。
もし、あなたやご家族様のHBV感染が集団予防接種等によるものかもしれないと思われるのであれば、お気軽に当事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が全力であなたをサポートします。
⁽²⁾ NIID国立感染症研究所.“2.臨床症状(専門家向けHBV)“.NIID国立感染症研究所ホームページ.2013.https://www.niid.go.jp/niid/ja/vir2heptopi/3203-hbv-symptom-for-professional.html,(参照2023−12-22)
⁽³⁾ 最判平18.6.16民集第60巻5号1997頁.https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/231/033231_hanrei.pdf,(参照2023−12-22)
⁽⁴⁾ 厚生労働省健康・生活衛生局がん・疾病対策課B型肝炎訴訟対策室.B 型肝炎訴訟の手引き<第 5 版>ご自身での提訴を考えている方へ(説明編).厚生労働省ホームページ.2024.https://www.mhlw.go.jp/content/001281922.pdf ,(参照2024−08-02)
⁽⁵⁾ 概説2B型肝炎ウイルス (HBV).大阪大学医学部附属病院臨床検査部感染微生物免疫検査部門ホームページ.https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/hp-lab/rinkenhome/subfile/DCMI/kessei_gaisetu_2.pdf ,(参照2023−12-22)
⁽⁶⁾ 大石和佳,児玉英章,高石英樹,森奈美,柘植雅貴,平松憲,脇浩司,高橋祥一神安雅哉,高木慎太郎,丁守哲,平賀伸彦,白川寛夫,相方浩,今村道雄,茶山一彰.アーキテクトによるHBc抗体価測定の臨床的有用性に関する検討.肝臓.2004,45(10):p.555-556.https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/45/10/45_10_555/_pdf/-char/ja ,(参照2023−12-22)
⁽⁷⁾ 検査内容変更のご案内.株式会社ファルコバイオシステムズホームページ.2002.http://www.falco.co.jp/business/pdf/15-072.pdf ,(参照2023−12-22)
⁽⁸⁾ B型肝炎ウイルス抗体, HBcAb ( hepatitis B virus antibody) 臨床的意義.岡山大学ホームページ.[https://www.okayama-u.ac.jp/user/kensa/kensa/virus/hbcab.htm ,(参照2023−12-22)→EIA(70%)
⁽⁹⁾ 倉井清彦, 飯野四郎, 鈴木宏, 三田村圭二.Enzyme immunoassay法によるHBc抗体測定の検討.肝臓.1981,22(12):p. 1741.https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/22/12/22_12_1741/_pdf/-char/ja ,(参照2023−12-22)
⁽¹⁰⁾ 田中照二, 金崎章, 木村隆興, 鈴木康元, 山崎晴市, 堀口正晴.簡易ドック受診者におけるHBc抗体のEIA法による検討.肝臓.1984,25(5):p. 707.https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo1960/25/5/25_5_707/_pdf/-char/ja ,(参照2023−12-22)
⁽¹¹⁾ B型肝炎ウイルスコア抗体キットエルジア・F-HBc抗体.独立行政法人医薬品医療機器総合機構ホームページ.https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ivd/PDF/480585_20400AMZ00985000_A_01_01.pdf ,(参照2023−12-22)
⁽¹²⁾ 西山記子,矢野和則,清家容子,宇都宮圭子.当院受診の小児におけるHBV浸潤率-HBV母子感染防御施行より5年経過して-.日赤検査.日本赤十字臨床衛生検査技師会 .1994,28:p.11-13.https://cir.nii.ac.jp/crid/1050001338024023168 ,(参照2023−12-22)
⁽¹³⁾ 山田依里, 馬場尚志, 吉野直美, 圓田兼三, 飯沼由嗣.B型肝炎における急性/慢性の鑑別に関するルミパルスHBcAb-Nの有用性.医学検査.2014,63(1):p. 64-68.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/63/1/63_13-36/_pdf/-char/ja,(参照2023−12-22)
⁽¹⁴⁾ よくあるご質問(コールセンター FAQ).一般社団法人広島市医師会臨床検査センター.2021.http://www.labo.city.hiroshima.med.or.jp/wp-01/wp-content/uploads/2021/01/p02-05_よくあるご質問.pdf,(参照2023−12-22)
⁽¹⁵⁾ 山田裕子, 片山惠子, 海嶋照美, 郷裕子, 木村友希, 松尾順子, 田中純子.HBc抗体測定系におけるPHA法(マイセルanti-rHBc)とCLIA法(アーキテクト・HBcII)の比較.肝臓.2014,55(7):p. 409-412.https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/55/7/55_409/_pdf/-char/ja ,(参照2023−12-22)
⁽¹⁶⁾ 伊原弘美, 加藤俊明, 池田久實, 関口定美.献血者HBc抗体スクリーニング法としてのHI法の評価.日本輸血学会雑誌.1990,36(1):p. 56-62.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjtc1958/36/1/36_1_56/_pdf/-char/ja ,(参照2023−12-22)