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B型肝炎給付金と慢性肝炎 -弁護士が教える慢性肝炎の給付金額やこれを受け取るための要件-

B型肝炎給付金手続 弁護士
  • 慢性肝炎って診断されたら、B型肝炎給付金もらえるの?
  • ステロイドを使ったことがあるんだけど、慢性肝炎で和解できる?
  • もう治ってるんだけど、慢性肝炎の給付金をもらえるの?
  • 慢性肝炎と診断されてから20年経つと給付金は減額されるの?

あなたもこういった疑問を持ったことがありませんか?

本記事では、慢性肝炎の給付金額や、慢性肝炎の給付金を受け取るための要件について、弁護士が解説します。

1 はじめに

B型肝炎給付金は、集団予防接種等*¹によってB型肝炎ウイルス(以下「HBV」といいます。)に持続感染*²した方*³やその相続人に対して支払われる給付金です。

B型肝炎給付金の請求は、社会保険診療報酬支払基金という民間法人に行います。請求する際には、国との和解調書が必要になります。そのため、請求の前提として、国との和解を求めて、裁判を起こします。この裁判をB型肝炎訴訟といいます*⁴。

慢性肝炎の給付金額は、以下のとおりです。

原則 1250万円
発症から20年経過 原則 150万円
現に治療中*⁵、または、特異的治療*⁶歴がある場合 300万円
*¹ 集団予防接種等とは、集団接種の方法で実施する予防接種とツベルクリン反応検査のことです。
*² 持続感染とは、6か月以上継続する感染のことです。6か月未満で治る一過性感染と区別されます。
*³ 集団予防接種等によってHBVに感染した方には、一次感染者だけでなく、二次感染者と三次感染者も含まれます。集団予防接種等を直接の原因としてHBVに持続感染した方を一次感染者といいます。二次感染者は、一次感染者からの母子感染または父子感染によって持続感染した方です。三次感染者は、母子感染者からの母子感染または父子感染によって持続感染した方です。
*⁴ B型肝炎給付金には請求期限があります。2027年3月31日までに裁判を起こさなければなりません。
*⁵ 「現に治療中」とは、提訴日から遡って1年内にALT(GPT)の異常値が6か月以上継続しており、かつ、それが持続感染に起因している場合です。 なお、ALTは、肝細胞で作られる酵素の1つです。普段は肝細胞内に存在しますが、肝臓に障害を生じると血液中に漏出します。
*⁶ 「特異的治療」というのは、B型肝炎ウイルスに起因する慢性肝疾患でなければ、通常行わない治療です。インターフェロン治療、核酸アナログ製剤治療、ステロイドリバウンド療法(ステロイド離脱療法)、プロパゲルマニウム(セロシオン)治療の4つがあります。核酸アナログ製剤には、バラクルード(エンテカビル、ETV)、ベムリディ(TAF)、テノゼット(TDF)、ゼフィックス(ラミブジン、LAM)、ヘプセラ(アデホビル、ADV)があります。

2 慢性肝炎の意義

慢性肝炎とは、6か月以上続く肝炎です。慢性肝炎の給付金を受け取るためには、HBV持続感染を原因とする慢性肝炎を発症したことが必要になります。この慢性肝炎をB型慢性肝炎(慢性B型肝炎、CH−B、B−CH)といいます。

B型慢性肝炎は、HBe抗原陽性慢性肝炎とHBe抗原陰性慢性肝炎の2つに分けられます⁽¹⁾。HBe抗原は、HBVの部品です。感染してしばらくの間は、HBVが増殖する際に、他の部品と一緒に作られます。しかし、増殖を繰り返すうちにHBVが遺伝子変異を起こして、HBe抗原は作られなくなります⁽²⁾。そして、HBe抗原陽性慢性肝炎は、HBe抗原が陽性の間に発症するB型慢性肝炎です。HBe抗原陰性慢性肝炎は、HBe抗原が陰性になってから発症するB型慢性肝炎です。

なお、B型慢性肝炎と区別される肝炎に、B型急性肝炎とキャリアの急性増悪があります。B型急性肝炎は、一過性感染者が発症する一時的な肝炎です。キャリアの急性増悪は、持続感染者が発症する一時的な肝炎です。いずれも6か月未満で治ります。医師によっては、キャリアの急性増悪もB型急性肝炎と呼ぶことがあります。

3 慢性肝炎の立証

慢性肝炎で和解するためには、次の①と②の両方を立証する必要があります。

慢性肝炎を発症したこと
その慢性肝炎が持続感染に起因すること(以下「起因性」といいます。)

(1) B型慢性肝炎の立証資料

①慢性肝炎の発症および②起因性を立証するための証拠には様々なものがあります。ここでは、その典型例を紹介します。

①慢性肝炎の発症を立証する証拠の典型例は、以下の証拠です。

ALTの異常値が6か月以上継続したことを証する検査結果
慢性肝炎である旨の病理組織検査結果
慢性肝炎である旨の診断書とその裏付けとなる画像検査結果

②起因性を立証する証拠の典型例は、以下の証拠です。

①の治療として特異的治療を実施したことが記載されている医療記録
①の原因がHBV持続感染である旨の診断書とその裏付けとなる検査結果

なお、診断書を提出する場合、可能であれば、B型肝炎ウイルス持続感染者の病態に係る診断書(病態診断書、覚書診断書)を提出します。

この診断書は、虚偽と誤診を防止するための手当が施されており、通常の診断書よりも信用性が高められています。裁判所および被告である国以外への提出を予定しない診断書とすることで、虚偽診断書作成罪の成立を容易にし、医師が虚偽の診断を下すことを防止しています。また、作成権限を一定の専門医療機関に所属する医師に限定することで、作成者の専門性を担保して、誤診を防止しています。

(2) 再活性化とB型慢性肝炎

再活性化が窺われる場合には、B型慢性肝炎の立証に失敗することがあります。

ア 再活性化の意義

再活性化とは、持続感染者または既往感染者*⁷の体内のHBVが免疫抑制・化学療法*⁸などによって急増殖または再増殖する現象をいいます⁽³⁾。

そして、再活性化を起こすと肝炎を併発することがあります。この肝炎は、急性肝炎または急性増悪の一種であり⁽⁴⁾ ⁽⁵⁾ 、慢性肝炎ではありません。

*⁷ 既往感染者は、HBV感染したことがあるけど、現在は一応治っている状態の人のことです。一応というのは、HBV感染は完治しないからです。既往感染者であっても、肝臓内にはウイルスが残存しています。免疫の働きによって、増殖できなくなっているだけで、比喩的に言えば、HBVが仮死状態になった状態です。
*⁸ 免疫抑制・化学療法は、ステロイド、免疫抑制薬、抗リウマチ薬、C型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス薬、抗がん剤などを用いた治療です。

イ 再活性化が窺われる場合にB型慢性肝炎の立証に失敗する理由

再活性化に伴う肝炎は、劇症化率・致死率が高く、肝炎発症後の対応では手遅れであることも多くあります。そのため、再活性化に伴う肝炎を発症した場合には即時の治療開始が必要ですし、また、そもそも再活性化を予防するための措置が必要になります。

そして、再活性化の予防や再活性化に伴う肝炎の治療で使用されるのは核酸アナログ製剤です⁽⁵⁾ ⁽⁶⁾ ⁽⁷⁾。また、核酸アナログ製剤を助成金の対象にするためにB型慢性肝炎の診断名が付きます。つまり、B型慢性肝炎ではないのに、核酸アナログ製剤治療が行われたり、B型慢性肝炎の診断名が付くことがあるということになります。

そのため、免疫抑制・化学療法実施歴があり、再活性化が窺われる場合には、再活性化に伴う肝炎とB型慢性肝炎の判別が困難になることがあります。そして、その結果としてB型慢性肝炎の立証に失敗することがあります。

ウ 再活性化が窺われる場合のB型慢性肝炎の立証方法

もっとも、免疫抑制・化学療法実施歴があっても、B型慢性肝炎を立証する方法はいくつかあります。ここでは、そのうち2つを紹介します。

1つ目は、免疫抑制・化学療法の実施前に発症したB型慢性肝炎を立証する方法です。免疫抑制・化学療法実施前にB型慢性肝炎を発症していたのであれば、再活性化とは無関係だからです。

もっとも、免疫抑制・化学療法を必要とする基礎疾患での通院中にB型慢性肝炎の発症が明らかになった場合には、少し注意が必要です。この場合、通院の目的や期間からして、慢性肝炎を確認するための十分な検査が実施されていることはほとんどありません。また、再活性化予防目的での核酸アナログ製剤治療の開始とそのためのB型慢性肝炎診断は、免疫抑制・化学療法に先行します。そのため、この場合には、病態診断書によって補強するのがベターです。

2つ目は、免疫抑制・化学療法を終了してから長期間経過後に発症したB型慢性肝炎を立証する方法です。免疫抑制・化学療法を終了してから長期間経過すると、再活性化やこれに伴う肝炎発症のリスクは解消されるからです。

免疫抑制・化学療法終了後どの程度の期間が経過すれば、そのリスクが解消されるのかについてははっきりしませんが、2年程度は経過しているのが望ましいと考えられます。免疫抑制・化学療法終了後最低1年間のモニタリングの継続が推奨されている⁽⁸⁾ ⁽⁹⁾ ⁽¹⁰⁾一方、1年経過した後も再活性化に伴う肝炎の発症例がある⁽¹¹⁾からです。

4 慢性肝炎と除斥期間

(1) 除斥期間の意義

慢性肝炎の給付金は、原則として1250万円ですが、B型慢性肝炎を発症してから20年を経過する前に裁判を起こさないと150万円または300万円に減額されます。この給付金の減額をもたらす制度を除斥期間といいます。

本来の除斥期間は、権利行使をしないまま一定の期間を経過すると当然に権利が消滅するという制度ですが、B型肝炎給付金制度上は、被害者救済の観点から、給付金の減額にとどめています。

(2) 除斥期間を経過した慢性肝炎

除斥経過を経過した慢性肝炎の給付金額は、原則として150万円です。しかし、現に治療中であるか、特異的治療歴がある場合には、300万円です。

金額に差が設けられているのは、現に治療中である場合や特異的治療歴がある場合の方が、これらがない場合よりも損害の程度がより大きいからです。

現に治療中ということは、病気で苦しむ期間がより長く続いているということです。また、特異的治療は高額であり、かつ、強い副作用が出ることもあります。

そのため、現に治療中であるか、特異的治療歴がある場合は、身体的苦痛・経済的負担がより大きいといえます。

(3) 慢性肝炎再発と除斥期間

慢性肝炎を再発した場合には、除斥期間の起算日に注意する必要があります。

最初に発症した慢性肝炎について除斥経過が経過していても、その慢性肝炎がHBe抗原陽性慢性肝炎であり、かつ、再発した慢性肝炎がHBe抗原陰性慢性肝炎の場合には、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症日が起算日になります。

HBe抗原陰性慢性肝炎は、HBe抗原陽性慢性肝炎より進行した特異な病態であり、HBe抗原陽性慢性肝炎による損害とHBe抗原陰性慢性肝炎による損害は質的に異なるからです⁽¹²⁾。

もっとも、2024年2月現在、具体的要件については、国と弁護団が協議中であり、まだ定まっていません*⁹。基本合意書(その3)が締結されるまでは、HBe抗原陰性慢性肝炎を主張しても、和解または審査が保留になります。

*⁹ HBe抗原が陰性化した時期の特定が必要なのか、HBe抗原陰性慢性肝炎発症前に鎮静化を挟むことを要するのか、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症が認定されるために肝炎の継続を要するのかなどが問題になります。

5 まとめ

B型肝炎給付金は、集団予防接種等によってHBVに持続感染した方やその相続人に対して支払われる給付金です。

慢性肝炎で和解するためには、慢性肝炎の発症と起因性を立証する必要があります。

免疫抑制・化学療法実施歴がある場合には、B型慢性肝炎の立証に失敗することがあります。もっとも、免疫抑制・化学療法実施歴があっても、それより前に発症したB型慢性肝炎を立証するなどB型慢性肝炎を立証する方法はいくつかあります。

慢性肝炎の給付金は、原則として1250万円、慢性肝炎発症から20年を経過していると300万円または150万円です。しかし、HBe抗原陽性慢性肝炎の発症から20年を経過しても、HBe抗原陰性慢性肝炎の発症から20年を経過していなければ、1250万円になる可能性があります。

給付金を受け取るためには、様々な資料を集めて、自分が対象者であることを証明しなければなりません。その証明のためには、医学的・法律的な専門的知識が必要になりますし、医療記録の精査などのとても労力のかかる作業も必要になります。

もし、あなたやご家族様のHBV感染が集団予防接種等によるものかもしれないと思われるのであれば、お気軽に当事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が全力であなたをサポートします。

⁽¹⁾ 横須賀收.B型肝炎治療の進歩.日本消化器病学会雑誌.2018,115(1):p. 10-18.https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/115/1/115_10/_pdf/-char/ja,(2024-01-25)
⁽²⁾ 四柳宏,小池和彦.B型肝炎ウイルスの変異と治療.日本消化器学会雑誌.2008,105(2):p. 199-205.https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/105/2/105_2_199/_pdf/-char/ja,(参照2024-01-25)
⁽³⁾ 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編.B型肝炎治療ガイドライン(第4版).一般社団法人日本肝臓学会.2022,p.97.https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/B_v4.pdf,(参照2024-01-15)
⁽⁴⁾ 持田智.薬剤起因性障害の病態と治療戦略 3)免疫抑制・化学療法による B型肝炎の再活性化.日本内科学会雑誌.2020,109(9):p.1790-1795.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/9/109_1790/_pdf/-char/ja,(参照2024−02-06)
⁽⁵⁾ 谷丈二, 三好久昭, 細見直樹, 米山弘人, 泉川美晴, 前田瑛美子 .B型肝炎ウイルスの再活性化.日本内科学会雑誌.2014,103(6):p.1397-1405.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/103/6/103_1397/_pdf/-char/ja,(参照2024−02-06)
⁽⁶⁾ 楠本茂,田中靖人 .自己免疫性血液疾患:診断と治療の進歩Ⅳ最近の話題1.免疫抑制剤使用時の肝炎ウイルス再活性化.日本内科学会雑誌.2014,103(7): p..1645-1653.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/103/7/103_1645/_pdf/-char/ja,(参照2024−02-05)
⁽⁷⁾ 田中靖人.免疫抑制療法における B 型肝炎ウイルス再活性化の現状と方策−ステロイド単独治療中心に−.日本耳鼻咽喉科学会会報.2019,122(12):p..1548-1551.https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/122/12/122_1548/_pdf/-char/ja,(参照2024−02-05)
⁽⁸⁾ NIID国立感染症研究所,厚生労働省健康局結核感染症課.B型肝炎ウイルス再活性化について.病原微生物検出情報.2023,44(3):p.7-8.https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/iasr/44/517.pdf,(参照2024−02-05)
⁽⁹⁾ 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編.B型肝炎治療ガイドライン(第4版).一般社団法人日本肝臓学会.2022,p.107.https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/B_v4.pdf,(参照2024-01-15)
⁽¹⁰⁾ 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編.B型肝炎治療ガイドライン(第4版).一般社団法人日本肝臓学会.2022,p.113.https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/B_v4.pdf,(参照2024-01-15)
⁽¹¹⁾ 楠本茂,溝上雅史.がん化学療法中の B型肝炎ウイルス再活性化のリスクとその対策.国立国際医療研究センター病院.2012.https://www.kanen.ncgm.go.jp/cont/090/010/010/023/20120120_for_dr_04.pdf,(参照2024-02-05)
⁽¹²⁾ 最判令3.4.26民集第75巻4号1157頁.https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/269/090269_hanrei.pdf,(参照2024-02-05)
弁護士 藤林 裕一郎
弁護士 藤林 裕一郎
東京弁護士会所属
この記事の執筆者:弁護士 藤林 裕一郎
1000件以上のB型肝炎訴訟を担当。被害者救済を信条とし、粘り強く事件に取り組む。検査結果やカルテが全くない事案、再活性を起こしている事案など、解決困難事例とされるケースも多数和解に導いてきた実績をもつ。B型肝炎給付金手続についての詳細はこちら
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