- B型肝炎給付金っていくらもらえるんだろう?
- B型肝炎って言われたんだけど、B型肝炎給付金をもらえるのかな?
- B型肝炎給付金をもらうには、どういった手続きをとればいいんだろう?
あなたもそういった疑問を持ったことがありませんか?
本記事では、B型肝炎給付金制度の概要について弁護士が解説します。
目次
1 はじめに
B型肝炎給付金は、集団予防接種等*¹によってB型肝炎ウイルス(以下「HBV」といいます。)に持続感染*²した方やその相続人に対して支払われる給付金です。病態*³等に応じ、50万円〜3600万円の給付金が支払われます。
B型肝炎給付金請求権は、特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法(以下「特措法」といいます。)を根拠とします。
厚生労働省の推計によると、日本には110万人〜140万人のHBV持続感染者が存在するとされています。そして、そのうち40万人以上が、集団予防接種等を原因とするHBV持続感染者である可能性があると考えられています⁽¹⁾ 。
集団予防接種等では、かつて、注射器を複数人に連続で使用していました。HBV感染者に使ってその血液が付着した注射器が次から次へと使い回されることで、HBV感染が広がっていました。それにもかかわらず、国は、注射器の連続使用をしないよう指導しませんでした。
そこで、集団予防接種等によってHBVに感染してしまった人たちが、国の責任を問うための裁判を起こしました。この裁判で、最高裁判所は、この注射器の連続使用をしないよう指導しなかった点に国の責任が認められるという判決を下しました⁽²⁾ 。
その後、全国B型肝炎訴訟原告団・同弁護団と国との間で、同種の紛争を和解により解決するための基本的事項について定めた基本合意書*⁴が取り交わされました。また、B型肝炎給付金請求権の根拠法となる特措法が制定されました。
B型肝炎給付金の請求は、社会保険診療報酬支払基金という民間法人に行います。請求する際には、国との和解調書が必要になります。そのため、請求の前提として、国との和解を求めて、裁判を起こします。この裁判をB型肝炎訴訟といいます。
B型肝炎給付金には請求期限があります。2027年3月31日までに裁判を起こさなければなりません。
*² 持続感染とは、6か月以上継続する感染のことです。6か月未満で治る一過性感染と区別される感染状態です。
*³ 病態には、無症候性持続感染者(慢性肝疾患を発症していない持続感染者)、慢性肝炎、肝硬変、肝がん、死亡があります。
*⁴ 基本合意書には、和解の要件、和解の要件を証明するための証拠、和解の内容(和解金額等)などが定められています。
2 B型肝炎給付金の金額
B型肝炎給付金の金額は以下のとおりです。
病態 | 除斥期間 | 給付金額 | ||
---|---|---|---|---|
無症候性持続感染者 | 未経過(感染から20年未満) | 600万円 | ||
経過(感染から20年以上) | 50万円 | |||
慢性肝炎 | 未経過(発症から20年未満) | 1250万円 | ||
経過(発症から20年以上) | 原則 | 150万円 | ||
現に治療中*⁵、または、特異的治療歴*⁶あり | 300万円 | |||
肝硬変 | 軽度 | 未経過(発症から20年未満) | 2500万円 | |
経過(発症から20年以上) | 原則 | 300万円 | ||
現に治療中*⁷、または、特異的治療*⁶歴あり | 600万円 | |||
重度 | 未経過(発症から20年未満) | 3600万円 | ||
経過(発症から20年以上) | 900万円 | |||
肝がん | 未経過(発症から20年未満) | 3600万円 | ||
経過(発症から20年以上) | 900万円 | |||
死亡 | 未経過(死亡から20年未満) | 3600万円 | ||
経過(死亡から20年以上) | 900万円 |
*⁶ 特異的治療とは、B型肝炎ウイルスに起因する慢性肝疾患でなければ、通常行わない治療です。インターフェロン治療、核酸アナログ製剤治療、ステロイドリバウンド療法、プロパゲルマニウム治療があります。
インターフェロン治療で使う薬剤には、以下の2つがあります。
①従来型インターフェロン、②ペグインターフェロン(Peg-IFN、ペガシス)
核酸アナログ製剤には、以下の5つがあります(2024年1月時点で販売終了になっているものも含みます。)。
①バラクルード(エンテカビル)、②ベムリディ(テノホビル アラフェナミドフマル)、③テノゼット(テノホビル ジソプロキシルフマル)、④ゼフィックス(ラミブジン)、⑤ヘプセラ(アデホビル)
*⁷ 肝硬変軽度についての「現に治療中」は、以下のⒶまたはⒷの場合です。
Ⓐ提訴日から遡って1年内に、病理組織検査により肝硬変と認められ、その肝硬変が持続感染と相当因果関係があると認められる場合、Ⓑ提訴日から遡って1年内に、医師の診断、診断を裏付ける診療録、画像検査報告書、血液検査結果等により、総合的に肝硬変であると認められ、その肝硬変が持続感染と相当因果関係があると認められる場合
3 B型肝炎給付金の対象者
B型肝炎給付金の対象者は、集団予防接種等によってHBVに持続感染した人です。集団予防接種等を直接の原因として感染した一次感染者だけでなく、一次感染者を介して感染した二次感染者と三次感染者も含まれます。
(1) 一次感染者の意義と要件
一次感染者は、集団予防接種等を直接の原因としてHBVに感染した人です。
一次感染者として和解するための要件は、以下の5つです。
① | HBVに持続感染したこと |
② | 満7歳になるまでに集団予防接種等を受けたこと |
③ | その集団予防接種等で注射器の連続使用が行われていたこと |
④ | 母子感染でないこと |
⑤ | その他集団予防接種等以外の感染原因がないこと |
(2) 二次感染者の意義と要件
二次感染者は、一次感染者からの母子感染または父子感染によってHBVに感染した人です。母子感染によって感染した人を母子感染者、父子感染によって感染した人を父子感染者といいます。
二次感染者として和解するための要件は、以下の3つです。
① | 母親または父親が一次感染者の要件を満たすこと |
② | 本人がHBVに持続感染したこと |
③ | 本人の持続感染の原因が母子感染または父子感染であること |
(3) 三次感染者の意義と要件
三次感染者は、母子感染者からの母子感染または父子感染によってHBVに感染した人です。
三次感染者として和解するための要件は、以下の4つです。
① | 祖母が一次感染者の要件を満たすこと |
② | 母親または父親が二次感染者の要件を満たすこと |
③ | 本人がHBVに持続感染したこと |
④ | 本人の持続感染の原因が母子感染または父子感染であること |
4 B型肝炎給付金請求手続の流れ
B型肝炎給付金の請求は、社会保険診療報酬支払基金(以下「支払基金」といいます。)という民間法人に対して行います。請求する際には、和解調書等が必要になるので、前提として、国を被告とする裁判を起こします。この裁判を一般にB型肝炎訴訟といいます。裁判が必要になるので、まずは裁判の準備が必要になります。
B型肝炎給付金手続の流れを時系列で表すと、以下のとおりです。
①裁判の準備 |
↓
②B型肝炎訴訟手続 |
↓
③支払基金への請求 |
(1) ①裁判の準備
裁判の準備として必要になるのは、証拠集め、訴状や証拠の説明書の作成などです。
集めるべき証拠は、原則として、基本合意書で提出すべきとされている定型的な証拠です。その証拠を入手できない場合には、和解要件の存在を推認させる非定型的な証拠を集める必要があります。
なお、裁判を起こす前に全ての証拠を集める必要はありません。先に裁判を起こしてから証拠を集めることもあります。たとえば、以下のような場合です。
・早く裁判を起こさなければ給付金の金額が下がってしまう場合
・裁判を起こしてからでないと取得できない証拠がある場合
訴状は、原告の言い分とその根拠を記載して、裁判所に提出する書面です。
裁判所用と被告用の2通作成します。訴状を提出しなければ裁判は始まらないので、裁判を起こす時点で作成していなければなりません
証拠の説明書は、提出する証拠がどの要件に関する証拠なのか、なぜその証拠で要件を証明できるのかなどを記載した書面です。B型肝炎訴訟では、個別事実一覧表や個別証拠一覧表という特殊な証拠説明書が使われることもあります。
証拠が全て揃わないと完成しないので、証拠集めを後回しにした場合は、証拠の説明書の作成も後回しになります。
(2) ②B型肝炎訴訟手続
訴状を提出して、被告に訴状が送られると、裁判が始まります。
そして、証拠を提出すると、和解の要件を満たしているかどうかについて、国が審査を開始します。この審査は約1年かかります。
国が和解の要件を満たすと判断した場合には、国から原告に対して和解案が提示されます。原告がその和解案どおりの和解に応じると回答したら、和解期日に和解調書が作成されます。
国が和解の要件を満たすかどうかを判断するためには証拠が足りないと判断した場合には、証拠の追加提出が求められます。
実際に証拠が足りないのであれば、要求された証拠を提出します。要求された証拠を提出したら、その証拠を踏まえて再度審査に入ります。
もっとも、審査担当者のミスによって明らかに不要な証拠の追加提出が求められることもよくあります。その際には、その証拠の提出は不要であることとその理由を伝えて、審査担当者に再考を促します。審査担当者が再考した上で不要と判断すれば、追加提出の要求は撤回されます。
(3) ③支払基金への請求
和解調書が作成されたら、支払基金に対してB型肝炎給付金の請求をすることになります。
請求する際には、以下の書類が必要になります。
【除斥期間を経過した無症候性持続感染者以外】
① | 給付金等支給請求書 |
② | 和解調書、調停調書、確定判決書の正本または謄本 |
③ | 住民票 |
④ | ③で請求者の氏名、住所等が確認できない場合には、その他の書類であって給付金等支給請求書に記載した事実を証明するもの |
⑤ | 和解成立後支払基金への請求前に死亡した場合、相続人であることを証する戸籍 |
⑥ | 代理人が請求する場合には、代理人であることを証する書類 |
【除斥期間を経過した無症候性持続感染者】
① | 給付金等支給請求書 |
② | 和解調書、調停調書、確定判決書の正本または謄本 |
③ | 住民票 |
④ | 特定B型肝炎ウイルス感染者定期検査費等受給者証交付請求書 |
⑤ | ③で請求者の氏名、住所等が確認できない場合には、その他の書類であって給付金等支給請求書に記載した事実を証明するもの |
⑥ | 和解成立後支払基金への請求前に死亡した場合、相続人であることを証する戸籍 |
⑦ | 代理人が請求する場合には、代理人であることを証する書類 |
5 まとめ
本記事では、B型肝炎給付金制度の概要について解説しました。
B型肝炎給付金は、集団予防接種等によってHBVに持続感染した人やその相続人に対して支払われる給付金です。
病態等に応じて、50万円〜3600万円の給付金が支払われます。
給付金の対象者には、一次感染者だけでなく、二次感染者と三次感染者も含まれます。
B型肝炎給付金請求手続は、訴訟準備、B型肝炎訴訟手続、支払基金への請求という流れで進みます。
給付金を受け取るためには、様々な証拠を集めて、自分が対象者であることを証明しなければなりません。そのためには、医学的・法律的な専門的知識が必要になりますし、医療記録の精査などのとても労力のかかる作業も必要になります。
もし、あなたやご家族様のB型肝炎ウイルス感染が集団予防接種等によるものかもしれないと思われるのであれば、お気軽に当事務所にご相談ください。経験豊富な弁護士が全力であなたをサポートします。
⁽²⁾ 最判平18.6.16民集第60巻5号1997頁.https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/231/033231_hanrei.pdf,(参照2024-01-23)